元ネタを探るということ――MCバトルのビートを素材に
グラフィティ
ラップ
ヒップホップの三要素と言われているやつだ。最後の「ラップ」にもいろいろあって,真っ先に思いつくような音源のやつもあれば,その場で即興でラップするフリースタイルというやつもある。
そしてフリースタイルで相手をディスりあうのがMCバトルだ。
MCバトルは面白い。
MCバトルの面白さにはさまざまな側面から接近できる。例えば「韻の固さ」,「言葉の乗せ方(=フロウ)のフリーキーさ」,「言い回しのユニークさ」,「対戦者同士のドラマ性」などなど。
これらの内,いずれに重きを置くかはその人の好みなのだが(そして結構人によってバラつきがある),実はあまり注目されていない観点がある。
それはDJがバトル用に流すビートだ。
もちろん皆がまったく無関心というわけでもない。特にヒップホップ界隈の有名な曲(=クラシック)がビートとして選ばれると,観客もMCもアガる。
例えば,超超クラシックなSoul Screemの「蜂と蝶」がビートだと皆,うおおおおおおってなる。そしてラッパーは必ず「蝶のように舞い~~ブンブンバ!」とサンプリングする(お約束)。
蝶と蜂(instrumental) / SOUL SCREAM - YouTube
こうした有名曲に限らず,ビートに注目してみるのは面白い。今回,書きたいのはそんなビートの元ネタを探るという作業についてだ。その端緒として選んだのは名試合と呼ばれているこのバトルだ。
黄猿も鎮座ドープネスもフロウが抜群に上手い。もうこのバトル自体がひとつの音源かのように思えるほど,気持ちの良い乗せ方をしている。
そして,この両者のフリーキーなフロウを可能にしているのがDJ yukihillの選曲だ。このトラックを選んだDJ yukihillナイス過ぎる。
さて,この最高なビートは何という曲だろうか。ここに元ネタ探りポイントがある。
答え。このビートはボブ・マーリーの息子であるダミアン・マーリーのAll Nightという曲だ。
なんて楽しい曲だろう。このトラックにラップを乗せて楽しくないはずがない。このようにMCバトルのビートに注目することで新たな曲との出会いがある。
よし,いい曲を知ったよかったよかった。
では終わらない。まだまだ「探り」尽きていない。実はこの曲(All night)にも元ネタがあるのだ。それがこれだ。
LionrockのRude Boy Rockという曲だ。歌詞がほとんど乗っていなくてもいい曲だと感じる。タンタンタタンというあの印象的なフレーズは健在だ。
よし。ここまでたどり着けば大丈夫だろう。と気を抜いてはいけない。まだだ。まだ「探れる」のだ。実はこのRude Boy Rockはカバーであることがここで判明する。そのカバー元の曲がこちらだ。
SkatalitesのNimrodという曲だ。さすがに音に古臭さを感じるが,またそれが良い味を出している。
やっとこの地点で元ネタ探りは終了する。さすがに黄猿VS鎮座から遠くまで来すぎた感は否めないが,妙な達成感が心を満たす。
整理すると以下のようになる。
黄猿VS鎮座ドープネスのバトル(DJ yukihill)
↑
Damian MarleyのAll Nght
↑
LionrockのRude My Rock
↑
SkatalitesのNimrod
うーん。壮観。もしかしたらDamian MarleyはSkatalitesから直接インスピレーションを受けた可能性もある。その場合は真ん中のLionrockは省略されるのだが,そこはご愛嬌。
まぁキリのない作業なので面倒ではあるが,音楽の知識を増やすきっかけにもなるのでMCバトルのビートの元ネタ探り,おすすめです。
追記
DJ yukihillの選曲は最高(2:50から)。
ちなみに元ネタはSUIKEN ALKMAN - YouTube