格差社会について――ローレンツ曲線とジニ係数を読み解く
2006年の流行語大賞(※)にもノミネートされた「格差社会」。この言葉が登場してから10年近く経った今でも頻繁に用いられているのは,現状を指し示す言葉としてのリアリティを持ち合わせているからだろう。
※ちなみにこの年の大賞は「イナバウアー」。感慨深い。
つまり「現在は格差社会である」と言えば,ある一定の同意は得られることが予想される(もちろん「そんなことない」と反論する人もいるだろうが)。
しかし,本当に格差社会と言えるのか?どのようにすれば格差社会を実証できるのか?そこで参考になるのが,「ローレンツ曲線」と「ジニ係数」である。今回はこれらの指標を用いて「格差社会」を実証していく。
まず,「格差社会」とはどのような社会の状態を指すのか,おおまかにイメージしておこう。当たり前すぎる話であるが「格差社会」とは,上層(=裕福)と下層(=貧困)に社会が二極化してしまった状態を指す。
※イメージ
つまり富の分配にかなり偏りがあることを示すことができれば,それは「格差社会」の証左となるのだが,これがなかなか体感できるものではない。いや,社会学的想像力(※)を持ち合わせている人ならばそれは可能なのかもしれないが,他者を説得するためには,やはり体感以上にデータで示すことも重要だろう。そこで使えるのが「ローレンツ曲線」である。
※社会学的想像力とはアメリカの社会学者ミルズが提唱したもので,ミクロな(極めて個人的な)体験とマクロな社会構造をつなげることのできる想像力のことを指す。
ローレンツ曲線とは
「ローレンツ曲線は,所得の低い世帯から高い世帯に順に並べた場合の所得の累積比率を示している。」(第一学習社『高等学校 政治・経済』)
と言われてもなんのことかさっぱりだろう。ここで具体的なグラフを見てもらいたい。
これは総務省が公開している「家計調査年報(平成27年)」をもとに(エクセルを駆使して)私が作成したものである。
まずはこのグラフの見方を説明しよう。
【基本情報】
①オレンジ色の直線が完全に平等な社会を表す均等分布線,水色の曲線が不平等を表すローレンツ曲線である。
②縦軸が人々の所得(年収)を累積(≒どんどん足していく)していった数字,横軸が左から所得の低い順に並べた数字である。
③均等分布線とローレンツ曲線のズレが大きいほど(下方にたわんでいるほど),不平等である。
最初にオレンジ色の線(均等分布線)を見てほしい。横軸が50%のとき縦軸もちょうど50%となっている。つまり所得ランク下位50%の人たちの所得(横軸)を全部足すと(=累積すると),全体の所得(縦軸)の50%となる。これが極めて平等な状態である。
次に水色の線(ローレンツ曲線)を見てほしい。所得ランク下位50%の人たちの所得を全部足すと,今度は全体の所得の約25%にしか満たない。もっと極端な例を挙げるなら,所得ランク下位80%の人たちの人たちの所得を全部足しても全体の60%程度にしかならない,逆に言えばこの国の富全体のうち40%は所得ランク上位20%の人たちが占めているということになる。これは不平等といっても過言ではない状態ではないだろうか。
ローレンツ曲線から読み取れる富の分配を円グラフで示すなら以下のようになる。所得ランクを5分割し,それぞれのランク帯が全体の所得(国全体の富)のうち何%を占めているか示している。下層 low(下位5分の1)は全体の内のたった8%,それに対して上層 high(上位5分の1)は全体の内の40%を占めているということが読み取れる。これが現在の日本の状態である。
しかし,ローレンツ曲線にも欠点がある。それは,年度別に比較することが困難であるという点である。一つのグラフにいくつものローレンツ曲線を描くわけにはいかない(すごく見づらそう)。ローレンツ曲線は静的な状態(○○年の格差)を可視化するのには向いているが,年度ごとの比較や国際比較をするのには向いていない。後者のような目的の際には「ジニ係数」というものが役に立つ。
ジニ係数とは
赤い部分Aを青い部分Bで割るとジニ係数が求められる。ジニ係数は0~1の数値で表され,1に近ければ近いほど(=部分Bが大きければ大きいほど)所得格差が大きい,つまり不平等であるということになる。
ではジニ係数を求めて……みようと思ったが,ここで力尽きてしまった。それぞれの年度ごとに計算するのはさすがに面倒だった。申し訳ないが
ここからは既存のデータを紹介する形をとらせていただく。
【参考】
http://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/zeicho/2015/__icsFiles/afieldfile/2015/08/27/27zen17kai7.pdf
このグラフを見てわかる通り,ジニ係数(当初所得の格差)は右肩上がりである。これは格差社会化が進行してきていることの証左となるだろう。しかし,自分も意外だと思った点は,累進課税や社会保障給付を考慮したジニ係数(再分配所得の格差)は増加ではなく,横ばいの傾向にあるということだ(~2010年)。格差是正のシステムは意外にもちゃんと機能しているようだ(油断はできないが)。ちなみに上記のローレンツ曲線(平成27年)をもとに算出されたジニ係数(再分配所得)は0.35であった。
と,ここまでローレンツ曲線やジニ係数をもとに「格差社会」を実証してきた。こうしたデータを参照することによって「格差社会」に関する議論はより地に足がついたものとなるだろう。この「格差社会」という現状をどうするのか,これからどのような制度を設計していくことが望ましいのか,今回作成したグラフなどがそうした議論のきっかけになれば幸いである。
【参考サイト】
ローレンツ曲線の作成およびジニ係数の算出は以下のサイトを参考にした。
また,所得のデータは政府によって公開されている「家計調査年報」を使用した。