何かにまつわるエトセトラ

確かめにいこう

「殺鼠剤」を誤読してしまう3つの罠

「殺鼠剤」って読めます?

 

もちろん読み方は「さっそざい」なのだが,自分はこの漢字が大変苦手で必ずといっていいほど誤読してしまう。文系のくせにそんな漢字も読めないのか!とのそしりを免れ得ないが,少しばかり言い訳をさせていただきたい。「殺鼠剤」には誤読を誘発するような3つの罠があるのだ。

 

罠その1 そもそも日常的に使わない

 

そもそも「殺鼠剤」は出現頻度が低い漢字である。おそらく多くの人は(少なくとも自分は)ネズミを殺さねば!という場面にはなかなか遭遇しない。日常的にそうした使命感に駆られているのは,ネズミの害で困っている飲食店,もしくは猫のトムだけなのだ。ゆえに「殺鼠剤」という文字列を目にすることは年に1回あるかどうかといった程度になってしまい,なかなか覚える(=身体に読み方を染み込ませる)ことができない。これがひとつめの罠であり,「殺鼠剤」誤読シンドロームの根本的な原因である。

 

 

罠その2 殺虫剤とネズミの鳴き声のオーバーラップ

 

「殺鼠剤」の出現頻度が低い一方で,これと少し似た漢字はわれわれの生活にしばし登場する。そう「殺虫剤」である。「殺虫剤」は読み方が簡単なことに加え,出現頻度もわりと高い。「殺虫剤」を読めない人・目にしたことがない人というのはなかなか想像しがたいのではないか。だが,そのことが巡りめぐって「殺鼠剤」を誤読させる罠となりうる。「殺鼠剤」という見慣れない文字列をパッと見たときに,同時に想起されるのはあの馴染みぶかい「殺虫剤」である。なので「さっそざい」という読み方よりも先に「さっちゅうざい」というそれがまず脳裏をよぎる。もちろん通常であれば「さっちゅうざい」読みは一瞬で棄却されるのだが,ここでふたつのめの罠が牙を剝く。「殺鼠剤」に含まれる「鼠(ネズミ)」という文字と「さっちゅうざい」の「ちゅう」という文字の親和性はかなり高いのである。お気づきだろうか。「鼠(ネズミ)」が「ちゅう」と鳴くことに。「鼠」といえば「ちゅう」。「ちゅう」といえば「鼠」なのである。この罠によって「殺鼠剤」を「さっちゅうざい」と読んでしまうのも致し方ないことであろう。

 

 

罠その3 窮鼠猫を噛むで「きゅう」の方にいっちゃう

 

人間は反省をする生き物である。そして反省を活かして新たな行為を創出することができる。自分は繰り返される「殺鼠剤」誤読事件を解決すべく,反省に反省を重ね,次のような解決策を思いついた。それは「窮鼠猫を噛む」という言葉を思い出すといったものだ。「きゅうそねこをかむ」というきわめて知名度の高いことわざにおいて「鼠」は「そ」と発音される。それさえ思い出せば「殺鼠剤」=「さつ」+「そ」+「ざい」という勝利の方程式が脳内で完成し,正しい読み方をすることができる。これで解決。

 

と思いきや,ここにも罠が潜んでいた。「殺鼠剤」を眼の前にして「きゅうそ猫を噛む」を思い出したところで,「そ(鼠)」ではなく「きゅう(窮)」の方に引っ張られてしまうのだ。なぜなら,先に乗り越えたはずの「ちゅう」と「きゅう」の音はかなり似通っている。ゆえに再び「さっちゅうざい」という発音が脳裏をかすめ,誤読してしまう。解決策が一度葬ったはずの罠を復活させてしまうとはなんたる皮肉。これでは一生「殺鼠剤」を誤読したままではないか。

 

 「さっそざい」への道のりはまだまだ長そうである。