言えない正式名称と大人の対応
ある日の休み時間、とある生徒さんからクイズを出題された。
生徒「先生!これなんていうか知ってる?」
手元には図書館から借りてきたらしき本。開かれたページにはアレのイラスト。
アレとはコレのことである。
コレだ。
よく弁当に入っている醤油が詰められたソレだ。この魚型の容器の正式名称を自分は問われている。
しかしながら実は自分はこうした知っているようで知らない正式名称シリーズが大好きで、僭越ながら得意分野でもある。
例えばコレ。
はい、「ランドルト環」ですね。
続いてはコレ。
まぁ、「ディスペンパック」ですよね。
こんな具合で、自分は「知っているようで知らない正式名称」シリーズを割と押さえている方なのだ。
そんな自分に対して中学生は知ってか知らずか(知らないだろうけど)正面から勝負を挑んできたのだ。なんと愚かな。愚問とはまさにこの瞬間を指すためにある言葉なのだろう。
しかもよりによって「醤油が詰められた魚型のソレ」を出題するとは。「醤油が詰められた魚型のソレ」は「知っているようで知らない正式名称シリーズ」のなかでは「クロージャー(※1)」なみにメジャーな問題だ。ちなみに一番メジャーな問題は「バラン(※2)」である。
※1 食パンの袋を閉じるコの字型のアレ
※2 弁当によく入っている緑色の草みたいなヤツ
はいはい。「醤油が詰められた魚型のソレ」ね。えーっと。......アレ?ちょっと待てよ。全然出てこない......確かカタカナで......
全然思い出せないのである。
ちょっと待ってよ。よく弁当に入ってるやつだよね。えーっと......
全然思い出せないのである。
えーっと......
全然思い出せないのである。完全に敗北だ。唇を血が出るほど噛みしめながらしぶしぶ答えを訊ねる。
生徒「正解はランチャームでした〜」
とても悔しい。非常に悔しい。極めて悔しい。確実に耳にしたことはあった。しかし思い出せなかった。
したり顔の生徒さんに対して自分はまさかの行動を取ってしまう。
自分「じゃあカーテンをまとめる布の正式名称知ってる?」
生徒「知らない」
自分「タッセルでした〜。じゃあ時計の秒針が止まって見える現象の正式名称は?」
生徒「......知らない」
自分「クロノスタシスでした〜」
矢継ぎ早に出題する自分。答えられない生徒。そしてその生徒さんは本を抱えどこかへ行ってしまった。
あまりにも大人気なさすぎる。自分の負けを認めたくないばかりに中学生に対して知識を誇示するような問題を出しまくる。
大人気ない。大人気なさすぎる。
自分を大きく見せたいがために大人気ない対応をしてしまうことの正式名称ってあるんすかね。